第一章『黒い華』 第二節-断項-

≪??? Side≫


「――皆様のご尽力により、かねてから進めてまいりました研究が、無事に最終段階へと至ったわけですが…」

ちょうど真向いの席に座る「一」の仮面を付けた男が、腕を組みかえて小さく息を吐いた。
この男とはこの場で何度も顔を合わせているが、珍しく不機嫌そうな感情を仮面の下からのぞかせていた。

「ええ、こそこそと嗅ぎまわっている方が居るみたいですね」

その感情を代弁するように、私の右隣りに座っている「二」の仮面を付けた細身の男が付け加えた。
なるほど、それはたしかに何か対策を練らなければならないだろう。
真向いの男だけではなく、自分も含めた全員が芳しくない報せであることは間違いない。
その懸念通り、私の左隣の「三」の面を付けた大柄な男が勢いよく立ちあがった。

「おいおい、二十年近くかけてきた研究なんだろ? 不安材料は、とっとと始末するのが筋じゃねぇのか?」

男はそう捲し立て、私の真向いの男に身を乗り出した。
その様子を間近で見ていた男の左隣に座る「四」の面を付けた女が、からかうような口調で男に首を向けた。

「あらあら、≪三≫の方は乱暴ですわね」

「んだと? 揚げ足を取るだけしか能の無い≪四≫には言われたかねぇな…!」

≪三≫と呼ばれた男と、≪四≫と呼ばれた女が言い争いを始める。
張りつめていた場の雰囲気が否応なしに緩み、右隣の男――この男は「二」の面だ――は額に手を当てて溜め息をついた。

「……やれやれ、また始まりましたか…」

「……うるさい、耳障り…」

その様子にうんざりといったばかりに、真向いの男の左隣に座った「五」の面を付けた女が、舌打ちをする。

「いつ来ても賑やかだねー。自分はこういう雰囲気嫌いじゃないかなー」

そう言って二人を傍観して楽しんでいる自分は「六」の面を付けていた。
この場にいるのは今日はこれで全員であり、もう一人の“いつも姿が見えない”彼女は、今日は外しているようだ。

「……≪三≫と≪四≫、話が進みません。お静かに願います。あと、≪六≫の方も煽らないでください」

「……ちっ」

「あら、ごめんなさいね」

「っとと、ごめんよ、≪一≫の方ー」

≪三≫の男、≪四≫の女、そして≪六≫である自分が口を閉じると、真向いの≪一≫の男は話を続けた。

「こほん…。では、その不安材料についてですが、しばらくの間、ギルドから遠ざける方向で話を進めております」

≪一≫の男はそう言って、内容を簡易的に話す。
大雑把にいえば、その人物に長期遠征の任務を通達するといったものだった。

「生ぬるい方法じゃねぇのか、それ?」

懸念事項は排斥すべきといった主張から、≪三≫の男は再び≪一≫の男を睨む。
その男を制するように、自分の右隣の≪二≫の男が手を挙げた。

「それについては≪二≫である私から。本来であれば始末するかしないかで、どちらが良い状況となるかを考えますが、今回は込み入った事情がありましてね」

「じゃあなんだ、今回は始末するってのが手段として使えねぇってことか?」

「そういうことになります。もっとも始末するにしても、かなり困難な相手であることは間違いないのですがね」

「へー、六柱議会を尻込みさせるような手練れってことだねー」

「……手合せをしてみたい…」

≪五≫の女が悪態をつくものとは違った声色で、ぼそりと呟いた。

「≪五≫の方…、あまり早まったことはしないでくださいよ…?」

≪二≫が控えめながらも、≪五≫に顔を向けて言った。

「≪二≫はうるさい…」

「う、うるさいって…」

≪五≫の女は煙たそうに目を細めて≪二≫の男を見やった――ように見えた。
もちろん、実際には仮面で表情は読み取れない。

「ねえ≪一≫の方? その迷惑なネズミは誰なのかしら?」

「あの亜人です、皆様もご存じでしょう?」

≪一≫の男は間を置くこともなく、そう答えた。
亜人という単語に、ざわつくことも無く、≪一≫以外は一同に黙り込む。

「以前にもお話しましたが、亜人についての対処は上に一任することになっています。この決定については絶対です」

そう言って、≪一≫の男は、全員へと視線を向けるように首を動かし、椅子の背もたれに深く腰掛けた。

「念のために言っておきますが、≪五≫の方、余計な手出しはしないように。今ここで騒ぎを起こせば、この研究その物が潰えることもあるでしょう」

「……分かった…」

≪五≫の女がつまらなさそうにそう口にすると、≪一≫の男は背もたれから上体を起こし、姿勢を正してから、全員に対して軽く頭を下げて見せた。

「他の方々も早まったことのなさらないように、この≪一≫、深くお願い致しますよ」

場の一同も同様に少し頭を下げる。
一拍おいてから、顔を上げた≪一≫の男の気配を感じ取る。

「それでは、これにて此度の六柱議会を閉じさせていただきます」

その一言で自分も含めた≪一≫以外の者たちが顔を上げる。
それを確認した≪一≫の男は、いつもの締めくくりの言葉を口にした。

「では……我らにフォトンの導きがあらんことを」

――≪一≫の男以外の全員がいつものようにその言葉を復唱し、一つの面白そうな企みが、また一つ現実味を帯びる。
それは途方もないほどに馬鹿な研究だったが、この研究が遥か遠い未来にまでも傷痕を残すことになるなど、今の自分には、ましてやこの場の全員ですら知る由もなかった。



(´・ω・`)オヒサシブリデス。
前回の執筆が2013年6月19日でした。

さて。

第二章から第三章への繋ぎのお話を書きました。
今回はたったの2145文字ですが、このまま続けて本編へ移行するとだいぶボリュームがあるので、区切りよく止めておくことにしました。
あと、劇中で書いてる自分もどうなってんだと思いましたが、彼らの席位置はこうなっております。



さり気に≪一≫の方が両手に花だった。
あと気になる方もおられるかもしれませんが、当の≪六≫の性別は女です。
つまり両手かつ真正面に女性という≪一≫の戦略です……嘘です。
男女で三角形になるようにしようという、私の戦略です。

個人的には、次らへんからクロノが遠征に出掛けるので面白くなってくるはずなんですが、さて気力がもてばいいのですがね。
ちなみにこの≪六≫の人に限っては、今後もちらほらと出すことが確定しております。
容姿について全く触れていないのは、その為です、たぶん。
他の方の登場については分かりませんが、その場その場で何やらかすか分からないのが私の書き物なので、そこらへんもご期待くださいませ。


(´・ω・`)さて、それではこの辺で。
スティーナ先生の次回の執筆にご期待ください。